樅木テレジア
Teresia Mominoki
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2013.06.01

The Colorful World

ミャンマーに来ています。

寺院の建つ山へ向かう途中、でこぼこ道を疾走する車は上下に激しく波打ち、私はその振動に負けじとこの原稿を書いています。

 

バガンにいます。

バガンとは、海辺の街ヤンゴンから北へ上り、首都ネピドーを通り越し、さらに北上した街です。

湿度高く蒸していたヤンゴンに較べ、バガンはひたすらに熱く乾いています。

昔、まだミャンマーの地に王朝が在った時代、その王都として栄えたのが、バガンでした。

ヤンゴンも、また首都ネピドーも、後に作られた新興の街です。

ヤンゴンはその歴史に示す通り英国統治下の面影を色濃く残し、ネピドーは軍事政権により造成された人工都市。

もしかしたら、ミャンマーの人にとってのソウル・シティとは、バガンに他ならないのかも知れません。

 

多くの読者にとって意外なことかもしれませんが、実は“ミャンマー人”とは、多用な民族によって構成されています。

中でも大きい割合を占めるのは、先に述べたバガンを王都と栄えた民族、「バーミー」。

いわゆるミャンマー語とは、彼らの使っているバーミー語を指します。

バーミーの他にも、シャン族、チン族、カチン族、モン族などなど。

彼らがもともと住んでいた地域は、現在も「シャン・ステイト」「チン・ステイト」といったように、「ステイト」と呼ばれています。

ミャンマーの地図を見ると、まるで連邦国家の地図のようにも感じられたり。

 

さて「あおくんときいろちゃん」という絵本をご存じでしょうか。

有名過ぎるほどの名作ですから、幼少時に愛読されていた方も多いかと思います。

ざっと内容を書き出してみますと。

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「あおくん」と「きいろちゃん」が遊んでいたところ、あまりに仲良しのために、いつしか色彩が重なり合い、ふたりは緑色になってしまう。

つまり、「みどりくん」と「みどりちゃん」になってしまった。

それでもふたりは良かったのだけれど、彼らが帰宅したとき、問題が起こる。

玄関口に立つ子供に、家の中の人が言うのです、

「うちの子は『あおくん』だよ、『みどりくん』はうちの子じゃないよ」と。

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細部に間違いがあるかも知れませんが、大筋としては上記のようなお話だったと記憶しています。

その後、“みどり”の二人はどうなったのか。

まだお読みでない方は、是非ご覧になってみてください。

 

私は水色が大好きです。

だからと言って、世界の全てのものが水色に染まってしまったら、私の中の水色への憧れは失われるでしょう。

赤や黄色、黒や白などの中にあるから、水色はことさらに美しく瞳に映るのです。

民族や国家についても、同様なのではないかしら。

 

我々のガイドについてくれたミャンマー人の男性は、バーミーとシャンのハーフです。

彼はシャンの言葉を解し、シャンの文化的イベントの楽しさを享受しながら、一方でバーミーの言葉と文化を愛し、ミャンマー人として生きています。

 

多様性があるからこそ、全ての個が個の輪郭線を失わないからこそ、地球は眩しく輝く。

あおくんは青色を澄み渡らせ、きいろちゃんはさらに鮮やかに輝き、みどりさんはますます深みを増し。

まるでスーラの絵画のようにきらきらしい、この、幾多の色に充ち溢れた世界を、私は愛しています。

 

バガンで見る、寺院のシルエットとシルエットとの間に覗く夕日は、切ないほど胸に迫ってきます。